人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ひさしぶりに投稿してみたpart1

それは深い深い夢…空気を掴むように実感がない。
視点はあるが自分の意思で動かすことが出来ないのだ。
おそらく他人の夢なのだろう。
薄暗い小部屋の片隅、漆黒の闇の中にうっすらと影が一つ浮かび上がる。
ソレは元々いたのか、いつ現れたのかわからないが、値踏みするようにこちら、だが自分ではない手前の誰かを見つつ向かって来る。
夢の中の誰かは突然現れたソレに興味を向ける風でもなく、何でもないような調子で静かに言った。
「下がれ、下郎」
その言葉に耳を傾けることなく、だが、その言葉をきっかけにしてソレはこちら目掛けて弾かれたようにとびかかってくる。
ソレはまるで弾丸のようなスピードで瞬く間もなく目の前までやってきて、その速度を保ったまま右腕を弓のように引いた。
充分に力をタメつつこちらに向かってよく研いだ剃刀のように輝く爪を、頸動脈へと突きだす。
まるで悪夢、しかし夢の中の誰かは動じることなく、弾丸のようなスピードで向かってくる相手に対して見えているのかいないのか、
いや、見ているのかいないのか払うような仕草をしただけだ。
キラキラと輝き存在感を発する金髪。その背中からは傲慢と呼んでもいい程の自らに対する自信がみなぎっていた。
そしてその決して大きくない体からにじみ出る威圧はまるで暴風のようだ。
そのせいか、ソレはたったそれだけのことで軌道をずらされ違うところへと向かっていく。弾丸が見える筈がない。
しかしどのような速度であろうと点の軌道ならどこを狙われているのかがわかれば防ぐことは容易なのだろう。
そうは言っても捌けるだけの技量がなければできるはずがないのだが。
弾かれたソレは振り返って攻めることなく警戒するように大きく距離をとった。
そして何事か呟き、口が裂けるほどの笑みを浮かべ、溶けるように闇へと消えていった。
ソレが消えたとたん景色が歪み崩れていく。
上も下も右も左もすべてが混ざり合い世界を塗り潰していく―――。
「…っ!なんなんだ今のは…夢か…あ゛ぁ…すんげぇ眠ぃ…」
季節は初夏。まだ6時にもなっていない朝、溶けてしまいそうな柔らかい日差しを浴びてヨウスケは目を覚ましたが、
7月特有のポカポカとした陽気はヨウスケから起き上がる気力を奪っていく。
しばらく布団にくるまりながらごろごろと転がってみたが、眠気が薄れる訳もなかった。
「さぁて、そろそろ朝の日課の時間だ。」と、気合を入れて体を起こしてはみたが、足はまだフラフラとしていておぼつかない。
それでもなんとか歩いて部屋を出て、目の前にある洗面台へと向かう。
寝ぼけたままの身体に刺激を与えるように頭から水を被るとようやく意識がシャッキリとしてきた。
時刻はちょうど六時「うし。いつも通り。」はっきりとした意識で板ばりの廊下を抜け、道場へと向かう。
静けさに包まれた道場の前に立ち、一礼
「御願いします。」
この一言から始まる稽古。
だが師はいない。いないのに稽古だと思うのはおかしな話だ。
なぜそう思うのだろう。
思い出そうとした。
頭の中に雑音(ノイズ)。
思考に靄がかかる。
いただろう?いたか?いや、いないだろう。いないはずだ。いないに違いない。
どうなのだろう。ぽっかりと記憶に穴が穿いている。
抜け落ちている、といったほうが正しいのだろうか。
思いだそうとする部分が消しゴムで消したかのように無いのだ。
いくら思い出そうとしても思い出せないので考えることはやめた。
師がいない稽古などもはや稽古とすら言えないかも知れないが、それでも朝に道場で鍛錬をしていると心に何かが在る。
心に何かを感じる。それは、なんだかとても暖かったような気がした。
些細で、それこそ取るに足らないような感覚にしか残っていないことを、なんでだか大切にしたい、とヨウスケは思っていた。
毎朝稽古をするのはその為だ。
準備運動を終え、目を閉じ五感を研ぎ澄ます。
体すべてをアンテナにする気分。
周囲の空気の流れさえも感じられる気がする。
持つものは…イメージ。目の前に自分より強い誰かを思い浮かべる。
誰に教わったのか腰を落とし右手を前に出す。自然と構えを取っていた。
そして…「はっ」その静かで緩やかな空気を…乱す。
一瞬にして空気は引き締まる。途端、自分のイメージした影が動く。
目は開ける必要はない。あとはその影を追って、
打つ。
いなす。
かわす。
思いのままに動き、倒す為に最善だと感じることを全て試す。
だが、何故だろう。その全ての動きをいなされ、反撃され、打ち倒される姿しか想像できない。
理由はわからなかったが、不思議とそれでいいのだ、とヨウスケの心は言っている。
自分の出し得る全ての攻撃が終わると稽古終わりの合図だ。
誰が決めたわけでもないだろうがその合図でイメージの影を消す。
吹き出る汗を拭いた後、一礼
「有難う御座いました」
そう言って朝の稽古を終えた。
by hiroki46497 | 2008-01-19 22:54
<< ニコニコ >>